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金平茂紀
1977年 TBS入社。
社会部、「ニュースコープ」副編集長、モスクワ支局長、ワシントン支局長、ニュース23編集長を務め、2005年から報道局長、2008年からはアメリカ総局長として、アメリカを中心に取材を続ける。
2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。

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#4 イルカについて僕が知っている二、三の事柄  

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イルカ・ウォッチングの光海丸にて(2010年12月5日)

イルカ漁の是非について、どこのメディアもあまり積極的にとりあげようとしないので、「報道特集」でテーマとして取り上げたいと思った。ニューヨークに住んでいた時、映画「The Cove」がアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門を受賞した。この映画をみて非常に複雑な衝撃を受けたので、いつかとりあげてみたいと思っていたのだ(「報道特集」では、2010年11月6日に放映)。アメリカではきわめて好意的な評価をもってこの作品は受け入れられた。だからこそオスカーを獲ったわけだが、僕には「こりゃあ、たまらないな」という思いがあった。正直に告白すれば、僕自身は今は「調査捕鯨」なるものに反対だし、イルカ漁もやらない方がいいんじゃないかと思っている。けれども「The Cove」を見終わったあとは、これはちょっと違う、という感じが強く残っているのだ。一言で言えば、それは自らの価値観の押しつけという一部の欧米人特有の所作に対する強い反発なのだと思う。これ以上のことをここでは記さない。もう別のところで既に書いたり話したりしているので(朝日新聞社から出ている「Journalism」2010年10月号。それに、ジュンク堂新宿店での森達也との鼎談 [YouTubeにアップされているらしい]をご参照のほどを)。

静岡県の伊豆富戸港でかつてイルカ漁を営んでいた石井泉さんが、あることがきっかけになってイルカ漁をきっぱりとやめて、今ではイルカ・ウォッチングに転じたという話を、イルカ問題を追っているジャーナリストの坂野さんから聞いた。それがどのようなものなのかを見に行くことにした。去年の12月5日、お天気の良い日だった。海はベタ凪。石井さんの光海丸は快調に沖合へと向かう。目をこらしてイルカの出現をまった。今回のツアー参加者は9人。坂野さんをはじめ、一水会の鈴木邦男さんもいた。鈴木さんとはイルカと全然関係ない三島由紀夫の話なんかをしていたら、時間が随分経過していた。いい気持だなあ。陽光が船に降り注ぐ。結局、イルカは全然姿を現さなかった。石井さんは「まあ、確率的には半々だけど、あとは普段の行いかも」と、トボけていた。陸にあがって、石井さんのお話を聞いた。なぜイルカ漁をやめるに至ったのか。その話はとても考えさせられるものだった。さらには僕のつとめている放送局TBSがそこに一枚かんでいたことを知った。夕方のニュースがかつて「ニュースの森」というタイトルだった頃の1996年、僕らの局の報道チームが、富戸のイルカ漁が国際的な非難を浴びた際に取材に入り、その際、石井さんがマスコミの取材攻勢にあって逃げ惑う漁協のトップに代わって、TBSのカメラの前でイルカ漁を全面擁護する発言を堂々と行ったのだ。「漁師が海のものを捕って何が悪いんだ!」。その発言は、しかし、後に発覚する漁獲枠の規制オーバーと言う事実の前にもろくも正当性が崩れ去る。村の漁師たちはその事実に目をつぶった。水産庁もしかり。石井さんはそのことが耐えられなかった。それで「漁協として襟を正そう」と持ちかけたところ、総がかりでつぶされた。それから、ひどい村八分にあう。それでも石井さんは負けなかった。イルカ漁をやめることを決め、さらに富戸港で初めてイルカ・ウォッチングを始めたのだ。石井さんの勇気に感動するとともに、それを支えた家族たちの思いにもこころが動いた。狭い村である。人には言えない苦しみがあっただろう。

よく人から言われるのだけれど、「放送って送りっ放しと書くんですよね。あなたたちは取材しあとに一度放送してしまえばすぐに、次のテーマに移って、もとのテーマを忘れてしまう」と。僕はそのように思われたくないもんだよな、と常々思っていて、自分なりにこだわっているいくつかのテーマがある。例えば、死刑制度の問題とか、戦争をめぐるテーマはそのような思いの延長上にある。

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阿佐ヶ谷ロフトで講演中の石井泉さん(2011年1月19日)

で、イルカである。イルカ・ウォッチングから2カ月もたっていないある日、石井さんが上京してきて東京の阿佐ヶ谷ロフトで講演をやるという。坂野さんからの依頼もあって、夜遅くまでのパネル・ディスカッションに参加した(1月19日の夜)。石井さんは相変わらず絶好調だった。僕は僕の考えていることを率直に話したつもりだが、こういう場のディスカッションはとても難しい。各自が言いたいことを勝手に言いあうだけになりがちで、議論がかみ合って新しい発見が生まれるということは正直、稀だ。この夜も残念ながら芳しい成果があったとは思えなかった。僕は途中で中座させていただいた。翌々日、「The Cove」のリック・オバリーの運動に歌手のスティングが共鳴して、運動に協力すると言う情報が入って来た。僕は僕なりのやり方でイルカについてこれからも追い続けていこうと思っている。

*         *        *

さて、ここでお知らせ。以下のイベントが近々あります。お時間がある方は予約・申し込みをされてお越しくださいませ。

▼1月30日(日) 鎌倉恩寵教会 15時00分~ 金平の講演

世論が動かす政治と司法
〜世論ってなあに?〜
と き 1月30日(日)15:00〜17:30(開場14:40)
ところ 鎌倉恩寵教会(鎌倉駅西口下車徒歩10分)
出演者 講師: 金平茂紀さん(TBS「報道特集」キャスター)
内 容 テレビ、新聞、ラジオ、インターネット...。あふれる情報の中から本当に大事な情報を手に入れるには?「グローバルにものを考え、ローカルに生きていこう!」と語る金平さんはTBS「報道特集」キャスターもつとめるジャーナリストです。報道現場などのお話を伺いながらご一緒に舞台裏をのぞいてみませんか?

参加費
入場料 前売り: 500円 当日: 600円

主 催 時を見つめる会

後 援 鎌倉市教育委員会

問合せ 080−6542-5329(神谷) 090−5822-6927(中西)

▼2月11日(金) 座・高円寺 ドキュメンタリー・フェスティバル 
 16時30分~ 作品上映 + 今野勉さんとの対話 
 『田英夫 ハノイからの証言』をめぐって
http://zkdf.net/program.html



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  • マスコミの皆さんへさん
  • 2011/02/21 08:11
日本は戦後長く自民党政権が続き、野党や金平さんたちマスコミの皆さんも批判することだけに慣れてしまいました。批判することだけに慣れた人間が政権を担うとどうなるか、今の民主党政権は、それを示していると思います。しかし日本が自由な社会である限り、時間はかかっても、今の混乱を克服していけると信じています。政治もマスコミも次世代への変革を必要としていると思います。
  • 依里さん
  • 2011/02/15 22:12
「ハノイ 田英夫の証言」を見てきました。

1969年生まれの私にとっては、ベトナム戦争の背景も映画でしか知りません。戦争映画といえば、その残虐さ、兵士、家族たちの苦悩、悲惨さを物語るものしか知らなかった。

しかしこのドキュメンタリーは戦時下の市民の日々の姿。日常の生活を淡々と過ごし、笑顔で歌を歌いながら農作業をし、一方では女学生が銃を持ち戦闘準備をする。ナレーションがなければとても戦争の真っ只中にいることとは結びつかず、ごく平凡な日々の生活がなおさら不気味な静けさを感じさせ、戦争とリンクさせる。とても恐ろしい気持にさせました。

今野勉さんと金平さんとのトークショーで、金平さんがおっしゃっていたこと、
「1969年と今の時間は繋がっている」
そのコトバに対して思ったことは、昔のことを憂いたり、悔やんでも何もできない。そこからなにを学ぶかということが大事である。とても考えさせられた時間でした。
  • なーんじゃさん
  • 2011/01/28 22:07
金平茂紀様

近年、膠着する国際捕鯨委員会に対し米国が譲歩案を提出したが、理由はイヌイットが鯨を食べる、つまり米国人は鯨を食べる、ためだった。以前、反捕鯨についてのイタリア人からの意見で、欧州人は兎を食べる事実を述べられていたが、その言葉には、世界には異なる文化が在ることを解っている節が見られた。米国も鯨を食べる民族を含んでいることを容認し始めたのだ。

反捕鯨運動は特に豪州で顕著なようですが、一般的に日本人が抱く豪州の魅力は、グレートバリアリーフやエアーズロック、生息するカンガルーやコアラなどの自然であり、入植したアングロサクソン人が築き上げた文化としては、正直ピンとくるものがありません。文字を持たないアボリジニの絵画の方が、人間が築いた文化という意味で、個人的には興味があります。

浅学、偏見もあるかもしれませんが、食文化の違いより以前に、文化を築く原点から考える必要を感じました。