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日下部正樹
1985年 TBS入社。
政治部、香港支局長、北京支局長、外信部デスクなどを務め、2010年9月までは、ソウル支局長。

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パルタイ

重慶が何やら大変な事になっているようです。

重慶とは中国内陸部の人口3千2百万人、
面積は北海道以上という巨大都市。
行政上は直轄市といって
北京や上海と同じように
省と同レベルの権限を持つ重要な都市です。
9HrUF65YR7.jpg
そこで何が起きたのか・・・
話は重慶市トップの薄煕来党委書記の
懐刀と言われ黒社会(暴力団)追放運動で
名を馳せた王立軍という副市長が
2月はじめに兼務していた
公安局長の職を解かれたことから始まります。
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当初、この事実上の降格人事を
素直に受け入れたかにも見えたのですが、
2月6日、王立軍さんは思わぬ行動に出ます。

以下ネット上に飛び交う
未確認情報をつなぎあわせると・・・

6日午後、王立軍副市長は
教育現場の視察に出かけると言い残し姿を消します。
ところが実際はトイレで
女性の衣服に着替え老婆に扮装、
幹部用車両ではなく一般車両を運転し
重慶市を脱出します。
向かった先は300キロ先の
四川省成都市にあるアメリカ総領事館!

事前に電話で訪問を伝え
6日夜、総領事館に入った王立軍さんは
「薄熙来に消される!」と政治亡命を求めます。
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一方、薄熙来書記ですが
王立軍さんの行動を察知すると重慶市長に命じて
警察車両70台を成都に向かわせ
なんとアメリカ総領事館を包囲します。
王立軍を出せと威嚇したんですね。
管轄を侵害された成都市が怒って
装甲車を出動させ成都と重慶の車両が
総領事館周辺で対峙したという話もあります。
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それでアメリカ総領事館はどうしたかというと
亡命について総領事の一存では決められないと
北京にある大使館に連絡します。

連絡を受けたアメリカ大使館は
中国政府(外務省)と接触、
遅くとも7日午前までに重慶の出来事は
中国最高指導部の耳にまで届くことになります。
最高指導者のひとりは激怒し、
重慶に公安車両を引き上げるよう命令したといいます。
結局、アメリカ大使は
政治亡命は認められないと判断し、
王立軍さんに伝えますが、
アメリカは中国政府に王立軍さんの
身の安全を保証しろと迫ったのでしょう、
北京が事態打開に動き出します。
7日午後、国家安全省幹部を急遽成都に派遣。
合わせるかのように7日夕方に
王立軍さんはひとり総領事館の外に出ます。
この時「私は薄熙来の犠牲者だ。ひとりじゃ死なない。
秘密資料はアメリカに渡した。」と言い放ったそうです。
王立軍さんは8日朝に安全省幹部と成都を発ち、
現在北京で取り調べを受けている・・・

まるで謀略小説の世界・・・

改めて強調しておきますが
ほとんどが未確認情報で
眉唾なところも多々あります。
ただ北京も介入せざるを得ない異常事態が
起きたことは間違い有りません。
王立軍さんが領事館に入ったことは
アメリカも認めています。
中国の次期トップである
習近平副主席のアメリカ訪問直前に
アメリカの在外公館を
警察車両が包囲するなどということは
どうみても尋常ではありません。
(アメリカにしてみれば中国に
 貸しが出来たと言えなくもありませんが・・・)

しかし8日朝の時点では、
内外のメディアは重慶の動きをほとんど
掴んでいなかったのですね。
ところが当の重慶市がネット上にこんな文章を流します。
rjZ3rLZNjQ.jpg
「副市長は長期にわたる業務上の
過重な負担と精神的な緊張で
極度の不調に陥っているため、
同意の上で休暇をとり治療を受けている。」
何なのでしょうこの発表文は。
チャイナウォッチャーたちに
副市長周辺で大変な事があったから
調べてみればと言っているような文章です。
あに図らんや
中国のマスメディアが沈黙を守る中、
香港メディアや内外の中国系ネットは
この話でもちきり。
王さんが拘束された時のためにと
知人に託した薄熙来批判の怪文書まで
ネット上に出回っています。
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そもそも薄熙来さんは
この秋に開催される共産党大会で
最高指導部である政治局常務委員会入りが
取り沙汰されている人物です。
党幹部の父を持ついわゆる「太子党」の
ひとりですが年齢的に今度の党大会が
常務委員となる最後のチャンスと言われていました。

そこでなんとか自分を
売り込もうと思ったのでしょう。
懐刀である王立軍さんと
重慶で推し進めたのが「打黒唱紅」運動です。
「打黒」とは暴力団追放運動。
薄熙来さんと王立軍さんは前任地の遼寧省で
「打黒」が縁で知り合った仲ですから
黒社会がはびこる重慶でも大活躍、
王立軍さんは「打黒英雄」ともてはやされます。

もう一つの「唱紅」。
紅歌(革命歌)を唱おうと言う
奇妙奇天烈な運動です。
ネットで「唱紅」大会を検索すると
真っ赤に染まった重慶の街の
映像がいくつも見つかります。
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文化大革命を連想させる
アナクロ以外何ものでもない運動が
いまだ評価されてしまうところが、
中国のまだまだわからないところです。

私は薄煕来さんが大連市長だった時、
直接、取材したことありますが、
売り込み上手、宣伝上手な市長だな
という印象を受けました。

いずれにせよ薄熙来さんは
常務委員のポストに手がかかるところまで
来ていたわけです。
そんな時に起きた今回の事態。
もはやこれを王立軍と薄熙来の個人的な
恨みつらみのぶつけ合いと思っている人は
中国中どこを見てもいないでしょうね。
秋に開かれる共産党大会に向け、
水面下で繰り広げらている
熾烈な権力闘争の一端を
垣間見たと言ったところでしょうか。
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ここで思い出されるのが
かつて北京のトップだった陳希同氏と
上海を牛耳っていた陳良宇氏の失脚です。

いずれも政治局常務委員会入り目前で
権力闘争に敗れた人たちです。
私は香港駐在時代1990年代中頃ですが、
いわゆる香港情報を通じて
江沢民氏と陳希同氏の凄まじい権力闘争の
ほんの一端でしょうけど
見せつけられ戦慄しました。

北京市副市長の不可解な自殺から始まり
香港財閥と北京市の再開発をめぐる疑惑。
次々とマスコミにリークされる汚職や不正は
最初は単発の事件に見えるのですが、
やがて事件のひとつひとつがつながり
権力闘争の標的が見えてくる・・・
逮捕後、陳希同氏のプライベートは
それこそ自宅室内の掛け軸から
女性関係まで徹底的に暴かれ、
裁判の様子は中国全土に中継されるなど
政敵は完膚なきまでに叩きのめされるのです。
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重慶の動きが権力闘争の一端なのか、
断定するにはもう少し時間が必要です。
ただ薄熙来さんや王立軍さん周辺の
汚職や不正の話がぽつぽつ出ているのが気になります。
共産党指導部に対する汚職摘発など
通常有り得ないからです。
司法機関はもちろん憲法や法律さえ超越する
共産党に対して汚職取締りなど不可能なのです。
共産党の下級党員に対する
トカゲの尻尾切り的な摘発ならいら知らず、
共産党幹部に対する汚職摘発とは
権力闘争に他ならないといっていいでしょう。

共産党最高指導部において
汚職摘発とは権力闘争の道具なのです。

目覚しい経済発展により
一部で豊かさを謳歌するようになった
中国社会において
共産党の存在は部外者からは
あまり意識されないかもしれません。

これから党大会にむけ
権力闘争が激化することは間違いありません。
変化する中国にあって
変わらない共産党の本質を
垣間見るような動きが度々あるはずです。
今年はそういう年なのです。
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通常、5年に一回開かれる党大会。
メディアに公開されるのは
開会式と閉会式だけ。
大会ではいまだ「インターナショナル」が唱われます。

パルタイとはドイツ語で「党」の意味。
倉橋由美子さんの
小説の題名としても知られています。



この記事へのコメント
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  • newtonさん
  • 2012/03/10 19:41
これこそ情報。