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[「正しさ」は一つではないだろう] ― 志村一隆

空虚は「正しさ」によって満たされるのか?

知人の実家は福島原発から40キロのところにある。実家の母は、それでも東京に避難したらという知人の声に耳を貸さない。「テレビで大丈夫だと言っているから」だという。「いわきは大変だねぇ」という意識なのだ。
ある人のツイートに、「情報開示から漫画による解説」までないと「多くの人は正しく判断できない気がする」というのがあった。
「正しさ」は、やさしく簡単なものであり、誰かに与えられるものなのか。
「ノイズ(前川さん3/21ポスト)」への自衛手段として、ソースを確認して安心する。それが政府発表だったりすると安心してしまう。
しかし、これでは、ネット空間がマスメディアのセカンドオピニオンとして機能するメディアとしては成り立たない。
「より多くの人が真実と思っているかに同意する仕組みの力学を離れていない(前川さん3/4ポスト)」と言われてしまうし、結局権力側の情報を再確認するだけのツールになってしまう。
さらにネット空間での正しさの希求が、他者を排除する。「自分の身体を純化するための修行」が、「異質な他者の内在を認めないテロリズム」に向かってしまう危険性がここにもある。(185頁、天皇とアメリカ、集英社新書、吉見俊哉、テッサ・モーリス=スズキ)

想像力と透明性

水墨画は「描かない」部分を想像してもらう表現だ。しかし、自由な想像を負担と感じる受け手もいる。送り手の意図と違ったものを想像してしまうことを怖れているのだ。そもそも想像するのが面倒な人もたくさんいるだろう。
インターネットが広まってから、あらゆる発信者に透明性が要求されるようになった。受け手は、想像力よりの発露より、裏切られるリスクをヘッジする。
佐伯啓思氏は、「欲望と資本主義(講談社現代新書)」で、新たな物品を求め未知な世界との貿易を拡大する欲望が資本主義の源泉であると述べ、「想像力を産業資本主義が独占してきた近代を脱して、それをもう一度、文化や知識の領域に取り戻す可能性も開かれてきたのである。(218頁)」と書いた。
しかし、インターネットが知識を開放した結果、文化、知識欲は逆に減ってしまったのではないだろうか。
透明性は想像力を減退させ、やさしさは欲望を衰退させる。

新たな緊張関係


このような状況下で、マスメディアはなにができるだろうか。

「ドキュメンタリーは「なぜ?」と問う異物であり続けること以外に自らの再生の道を見いだせない」(144頁、桜井均、「テレビジョン解体」所収 慶應義塾大学出版会)
「作り手は自由な精神の持ち主でありたい」(198頁、今野勉、テレビの嘘を見破る、新潮新書)


テレビなら、ソーシャルメディアで純化された「正しさ」に「異物」を投げ込める。テレビは、公正中立という幻想から自らを開放し、「カメラの視点」でモノを語るべきであろう。
福島原発から40キロに住むおばあさんにとって、テレビはうそをつかない、正しいものである。しかし、そのテレビ情報が、権力発だけでは悲しい結果を招くことになりはしないか。そのとき、テレビは知らんぷりをするのだろうか。
テレビはいったい誰のものなのか?視聴者のものか、「国家安全機能装置」なのか。パニックを起こさない名目の情報遮断は、正しさを求めるために政府発表に行き着いた時点で、ソーシャルメディアでも機能する。誰かが主体的に遮断しなくても、空気的に遮断される。
その空間に「異物」を投げ込み、受け手側に主体性を持って判断を委ねることが、パニックに陥らない社会、情報の民主主義を広めることにつながり、「入れ子構造」でのテレビ自身の存在基盤になるのではないだろうか。(参考:志村3/3ポスト)、河尻さん3/9ポスト)
空虚を埋めるもののヒントは、「表現と身体性」にあり、「身体はメディアである」のならば、メディアには主体的な視点が必要となろう。正しさは人の数だけあるし、純化された正しさを容認する空気ほど危険なものはない。



志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka



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