「CMに感じた『ソーシャル』の日本的土壌」 木原 毅

6月2日、ギャラクシー賞の贈呈式が都内のホテルで開催された。ギャラクシー賞は今年で48回目、放送批評懇談会が優れた放送番組や制作者、個人に与える賞で、このブログでも取り上げられた「ソーシャルメディア時代の放送」というシンポジウム(1)の勧進元でもある。 

賞には、テレビ、ラジオ、報道活動、CMの4部門があり、それぞれ大賞、優秀賞、選奨が選ばれ受賞者が顕彰されることになっている。
 今回の各賞でちょっと紹介したくなったのはCM部門の優秀賞2作品。大賞を取ったのはソフトバンクの「白戸家」選挙シリーズだが、優秀賞2作品は場内にちょっとした感動を呼んだ。ひとつはJR九州の九州新幹線全線開業「祝!九州縦断ウェーブ 特別篇」、もうひとつは東京ガスの「家族の絆・お弁当メール」篇。このふたつの作品は長尺CMだったためCM部門の関係者以外は会場で初めて見たという人も多かった。東京ガスは90秒。JR九州は、なんと180秒(3分)! テレビCMであるが、これら2作品はいまも動画サイトで見ることができる、というか、動画サイトで公開されることを前提に作られている。
まだご覧になっていない方は、「九州新幹線 CM」、「東京ガス お弁当 CM」と検索して双方の作品をゆっくり鑑賞していただければありがたい。

 大筋を紹介しておくとJR九州の180秒バージョンは全通した九州新幹線の鹿児島中央駅から博多駅までの車窓から、開業を喜ぶ住民らの大ウェーブを描いたもの。実際の撮影は試運転のある一日、ウェブサイトなどで収録を告知して、ワンチャンスをものにしたもの。沿線の1万人以上が参加したという。ところが九州新幹線の開業は今度の震災の翌日。CM制作者は受賞の席で『テレビであまり露出できなかったが、webで公開したことで東北地方の人から<良かった、元気づけられた>というコメントが書き込まれ、報われた』いうはなしを紹介してくれた。
 一昨年(もうそんなに経つのか!)話題になったT-mobile社の「ロンドンのトラファルガー広場に集まった1万人数千人がカラオケでヘイジュードをうたう」CM(2)を彷彿させるムーブメント型で、沿線住民のウェーブがまだ続くの!と思いながら引き込まれてしまい。こちらが楽しまされてしまう。視たものに参加したかったと思わせてしまう。

 いっぽうの東京ガスのCMの主人公は「お弁当」。『息子との会話が少なくなるので、お弁当だけはちゃんと作ることにした。それはちょっとした、一方的なメールみたいなもので…』という母親のナレーションから始まり、中学(たぶん)の3年間に作った、弁当がその時々のエピソードとともに画面に登場する。着想と構成がしっかりしているから、ドラマとして泣かせる。

 またふたつのCM作品に共通するのはweb公開を意識していること以外にもある。「人とつながる」がテーマであること、しかしそのテーマ性を前面に押し出すのではなく、さらにマーケティングや購買行動をあおるという仕掛けのニオイがしないこと。このあたりのさりげない意識がいまテレビに求められているのではないか、という気にさせられた両作品だった。


   (1)3月10日付け 氏家管理人「波乱のシンポジウム」
(2)これも「トラファルガー ヘイジュード CM」でぜひ。



木原毅(きはらたけし)プロフィール
1978年早稲田大学文学部卒業後TBS入社。ふりだしはテレビ営業局CM部。その後約20年ラジオのさまざまな現場生活を経て、2000年頃からインターネット・モバイルの部局へ。07年よりTBSディグネット代表取締役社長。




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