最近の記事

カレンダー

<<   2019年12月   >>
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

このブログで使用したタグ


「魔法少女 まどか☆マギカ」って・・・(ネタバレ注意!!!)― 氏家夏彦

「魔法少女 まどか☆マギカ」は、須田さん曰く『作り手の「革命の意志」というべき決意がシリーズ全体に感じられる』作品です。私も全く同感です。凄いとおもいます。まずアニメ作品としての凄さ、そしてビジネスでの凄さを述べます。

アニメ作品としての凄さ


「魔法少女 まどか☆マギカ」は少女漫画ではない。萌え系でもない。最初はそう見えるが、#3(第三話)で裏切られる。この作品には原作がないので、視聴者は誰も先の展開がわからない。そして裏切りは繰り返される。この作品の基本要素、それは「裏切り」だ。
「裏切り」、「掟破り」、「ルールブレイカー」(アニメ「Fate/stay night」を参照の事)。
言い方を変えれば、全ての予定調和を破壊し尽くす・・・「まど☆マギ」の制作者は作品の隅々まで、この「裏切り」を仕込んだのだ。

まずキャラクター原案の蒼樹うめ先生。先生の代表作は「ひだまりスケッチ」、萌え系アニメの典型的な大ヒット作である(私もファンです)。そしてアニメ制作は「ひだまりスケッチ」と同じシャフト。普通この組み合わせなら、ほんのりした、ゆるーい萌え系が来るだろうな、と想像してしまう。しかもウィキペディアによると、脚本の虚淵さんは初回放送前の番組公式サイトのコメントで「テレビの前の皆様が温かく幸せな気持ちで一杯になってもらえるよう、精一杯頑張ります!」と発言しており、予告CMの映像も明るい普通の魔法少女ものであるかのような描写が行われるなど、放送前にはストーリーに関わる情報が徹底的に伏せられた…ということで、裏切りの仕込みは徹底されている。(これは後述しますが、オリジナルストーリーを選択した事で得られる最大のメリット)

全12話だが、#1、#2は萌え系のイメージに沿った展開。ちょっと胸の大きい中学の先輩・魔法少女の1回目、2回目の魔女退治は、何と判り易くシンプルなことか。ほとんどの視聴者はこれを見て「色々な特技をもつ魔法少女たちが力を合わせて困難を乗り越えていく・・・という設定のアニメだ」と思い込んだろう。

ところがだ!#3で全てがひっくり返される。後輩が仲間になったことを喜ぶ中学先輩の魔法少女(胸がちょっと大きい)が、「もう人ぼっちじゃない!こんな幸せな気分で戦うの初めて。私、一人ぼっちじゃないの!」と、一気に敵の魔女を倒そうとしたところで・・・・・・あの衝撃のシーンである。深夜アニメをよくご存じでない方のために説明すると、いくら深夜でもあれだけの表現はあまりない(エヴァンゲリオンで、使徒である渚カヲルがやられるシーンを思い起こす)。とにかく#3では、思いっきり裏切られる。見る目の肥えたコアなアニメファンですら「この作品はちょっと違うぞ」と気付く。

#1、#2のエンディング曲は主人公が歌う典型的な萌え系ソング(エンディングの映像は画像1枚だし)。しかし#3では全く違うダークなシリアス系の曲に変えられる(映像もちゃんとした動画になる…ということは全てを計算していたということ)。ちなみにこれも1クール・アニメではあまりない事だ。ここで視聴者は「まど☆マギ」の世界に完全に取り込まれる。

裏切り=予定調和を全て破壊する、、、この作品はこれに徹底的にこだわっている。魔法少女の基本原理は「希望を追い求め、それが叶うと、必ず絶望に突き落とされる」である。人々の幸せと自分の願いをかなえるため魔法少女になる、すると魔女にならざるを得ず、魔女になれば悪を行う、それを別の魔法少女が倒す…なんと救いのない残酷な仕組みなのだろう。希望を得ると同じだけ絶望を生みだす。全ては破壊と絶望につながっている。この作品はとんでもないダークサイド・アニメだ。

愛する少年の壊された夢(ヴァイオリンを弾く)をかなえることで、彼を失ってしまうというストーリーもそう。自分の愛や犠牲が自分には何の得にもならず、犠牲を払う事により、失うものの方が大きくなる。努力すれば、一生懸命やれば報われる…そんなもの幻想だ、現実は冷酷なんだというメッセージが、何度も何度も傷に塩をなすりつけるように繰り返される。
「あなたは優しすぎる。忘れないで、その優しさがもっと大きな悲しみを呼び寄せることもあるのよ」このセリフが耳について離れない。

(アニメの中の)現実は少女が夢見るような単純なもんではなく、冷酷で残酷だ。それって今の(リアルの)世界にも言えるんじゃないか。ソーシャルネットワークの発展で、ネット上では様々な事象が単純化して整理される傾向がある。何でもかんでも二項対立に持ち込んで「あなたはこっち側?そうじゃないなら敵だね」的なシンプルな判断に集約されがちだ。でも現実はそんなに単純じゃない、もっと複雑で厳しい。制作者たちはそんなこともこの作品に込めたかったんじゃないか、と何となく思うのは、うがち過ぎかな。

再び言うけど、この作品はとんでもないダークサイド・アニメだ。しかし最後にとんでもない仕掛けで救いが降臨する・・・・(ここまでネタばれしてもいいのか不安だがタイトルで宣言してるし、ま、いいか)

欠かせないポイント、この作品では物語が実に見事に組み立てられていること。
1クール・アニメの場合、全12話の中で途中必ずサイドストーリーの回が組み込まれるものだが、この作品にはそれがない。どの1話を見逃してもストーリーが見えなくなってしまう。また韓流コンテンツが得意な「次回への引っぱり」を上手に使っている。オリジナルストーリーであるため先がどうなるかわからないことと、次への引っぱりで視聴者は「まど☆マギ中毒」になってしまう。ビジネス的に不利なオリジナルストーリーを選択した制作者たちの、本作にかけた並々ならぬ強い想いがうかがえる。

ビジネスとしての凄さ

ちょっとアニメ・ビジネスについて話します。
日本のアニメ・ビジネスは、簡単に言えば、全国に十数万人いるとみられているコアなアニメファン(アニヲタ)にパッケージ(DVDやブルーレイ)をどれだけ買っていただけるかというもの。数年前まではDVDは3万枚くらい売れると「ヒット」といっていたが、今はその半分もいけば大ヒットである。ヒットすれば二期(アニメの場合、続編やパートⅡを二期という)に繋がり、さらに支持層が広がれば、この作品のようにアニヲタだけでなく多くの一般のファンを獲得し「超大ヒット」となる。

アニメの製作費はかなり高額なため、一つの企業が負担するにはリスクが高すぎる。このため製作委員会方式がとられる。よく知識人が「テレビも製作委員会方式でリスクを分散させるべきだ」と言うのを耳にするが、テレビアニメの世界ではずっと以前からこの方式で作られている。放送でヒットし、DVDでヒットし、二期が放送されまたDVDとなると、今度は劇場映画化に繋がりビジネスは拡大していく。

またフィギュアに代表される商品化ビジネスは、一期の放送段階から積極的に展開される。また、出版ビジネスも必須。製作委員会の構成メンバーには、テレビ局やDVD販売会社以外に、音楽制作会社や商品化を得意とする会社、出版社など関連ビジネスに関わる企業が名を連ねるのが普通である。製作委員会の一員となる事で権利確保と配分の利益を狙う。コンテンツ・ビジネス分野の中で、アニメほどマネタイズが徹底されているものはない。なぜそうなったのかというと、アニメのコアなファンは数は少ないが購買意欲は非常に高いので、ある程度の分量なら確実に売れる計算ができるから。一方、普通のドラマでもある程度はマルチ展開するが、アニメほどではない。ドラマのターゲットは広いが薄いため、売れないリスクが高くなるからだ。だからアニメの場合は放送時の視聴率はそれほど問題にされない。

「魔法少女まどか☆マギカ」の場合も、HPを覗けば、DVDやブルーレイだけでなく膨大な数のグッズや関連本が並んでいる。コスト面でリスク分散させている訳だ。しかしこの作品では、アニメ・ビジネスとしては非常に危険性が高いオリジナルストーリーの形態を採用した。通常、テレビアニメは漫画やゲーム、ライトノベルを原作とする事がほとんどだ。そうすれば原作のファンの数からどの程度ヒットするのか、はずしてもどれくらいで収まるのかが予想できる。まぁ、保険みたいなもの。しかしオリジナル作品は原作ファンという計算できる顧客が全く見えない。今のほとんどのアニメがとる原作方式をとらなかった。そこに「魔法少女まどか☆マギカ」の制作者たちの「熱い想い」が見てとれる。そのマイナスがあるのを覚悟した上で、視聴者に「先が読めない楽しさ」を提供できる道が生まれる。制作者たちはこれを選択した。が、その一方で、少しでもリスクを減らすため、そしてビジネスを成功させるために、様々な仕掛けを作品の中に仕込んだのだ。

パッケージを売るための仕掛けは作品の中にも隠されている。冒頭に述べた「裏切り」もそう。作品を見直してみると、いたるところに裏切りの伏線・兆候が隠されている。DVDを見直して、この伏線を見つけるだけでも十分楽しい。例えば、見た目は可愛いペット系のキャラ、キュウべいは不自然なほど表情が無くしゃべる時も一切口が動かない(テレパシーだとしても)。これは初めて見た時には別に気にならないが、見直すと明らかに異常に感じる。こうした裏切りの伏線を見つける楽しさを味わうにはパッケージを買うしかない。

さらにこのストーリーにはSFでいうタイム・ループが組み込まれている。タイム・ループものの代表的な作品にはスピルバーグの映画「Back to the Future」があるが、これを何回も見直して「ここがあのシーンに繋がってたんだ」と面白がった人は少なくないだろう。例えば、本作でタイム・ループを繰り返す第二の主人公、ほむらの変化も魅力の一つだが、もう一度見直すと彼女の初期のセリフ一つ一つに、ループを繰り返した結果の冷たさ、悟り、覚悟を見いだせる。初回視聴で受けた彼女の印象とは激変する。最初は悪者キャラだと思っていたのが、何と愛おしくなるんだろう!この作品の中で最も人気のあるキャラだと言うのがよく理解できる。この反芻する楽しみを作品の中に仕込むとは凄い発想だ!まだ一度しか「まど☆マギ」を見ていない方、もう一度見る事をお薦めする。
制作に関わった全ての人たちの「革命的な作品を生みだすんだ」という熱い情熱と真摯が想い、今のアニメ界に立ち込める不透明感、閉塞感を打ち破ろうという情熱を感じる。
これは、パッケージが売れる訳だ。

長くなってしまったので、そろそろおしまいにする。

最後に、

この作品を見た人が必ず!考える事。
「たった一つ望みがかなうなら、自分は何を望むか?」

私だったら「世の中全てが私の望み通りになる」こと。最強でしょ!?
実は、これは私の娘がまだ小さかった時、七夕の短冊に書き込んだ願い。
これを読んだ時「こいつタダものじゃない」と感心したっけ。
この娘が「まど☆マギ」について誰よりも早く、
「お父さん、凄いアニメがあるよ」と教えてくれたのでした。


氏家夏彦プロフィール
1979年TBS入社。報道・バラエティ・情報・管理部門を経て、放送外事業(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)を担当した後、2010年TBSメディア総合研究所代表。月に200km走るのが目標です。週末は海に出てます。はっきり言ってゲーム・アニメは大好きです。



この記事へのコメント
印は入力必須項目です。
名前
コメント
画像認証 :

表示されている数字を半角で入力してください。
 
  • 須田和博さん
  • 2011/11/07 16:49
氏家さん、入魂の原稿、ありがとうございました!DVDビジネスに関して、まどマギがいかに超越的か?という件、弊社の超・詳しい後輩師匠に教わった情報によれば、、、
まど☆マギ_現状累計40万本超
エヴァ破_37万本
アバター_30万本
とのことで、アニメコンテンツを売るなら、今年は避けて来年にした方がいい(ユーザーのお財布が限られているので)とまで、言われているとか。