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本当に!怖い?「アジアの中の日本」 ― 稲井英一郎

志村さんのシンガポール論は面白かった。頭が連想ゲームのように触発される部分があったため、ちょっと違う論点から書きます。というより、ちょうど書きたかったテーマがシンガポールに関係していたもの・・・

 株式マーケットの世界では、日本の位置づけがアジアのうちにすら入らない「ナッシング」という状況になっているのをご存知ですか?日本以外の投資家から日本は存在が忘れられつつあるのです。日経平均株価を見れば納得しますよね。

 たとえば世界第3位の金融市場を抱える香港の休日。日本と違って旧暦で祝日が構成されていますが、香港がお休みに入ると世界のマーケットから日本株の商い(出来高)の半分が消えます。
 ほんの数年前までは機関投資家が香港に開設しているオフィスでは、日本株に関する限り、リサーチ業務が主な任務でした。アナリストの分析評価をもとに、欧米や東京にいるファンドマネージャーがポートフォリオの決定、つまり、どの銘柄を売って、どの株式を買うのか決めていたんですね。

 それが今や、香港やシンガポールで銘柄を決定するのが当たり前になっています。別に震災後の話ではありません。私がIR担当者としてボストンやニューヨークの巨大年金運用投資家を訪ねたり、日本に調査にやってくるヘッジファンドから取材を受けたりしたのが、ちょうどM&A旋風が吹き荒れた5-6年前のこと。その頃からこうした傾向は現れていましたが、リーマンショック後に特に顕著になりました。

 国境を越えてグローバルに儲ける機会を鵜の目鷹の目で探している投資家が、どんどん東京を見捨てていったという流れです。彼らはアジアの拠点を香港やシンガポールに移し、必然的に投資先の選択および決定権も、東京から失われていきました。
 
 かって欧米の機関投資家には、時価総額のふくらんだ日本の大企業のリサーチや、技術力や潤沢な金融・不動産資産の割には株式の評価が低い企業の、いわゆる「割安株」を探しにやってくる日本株の専門家が必ずいて、彼らは日本の「カイシャ」の実情にもそれなりに長けていました。
 それが、外資系証券会社に長年勤めていた方に最近伺った話では、いまやそうした人種はほぼ絶無になったというのです。日本株の位置づけはあくまでアジア株のワン・オブ・ゼムであって、しかも多くが日本株に興味を示していないというのです。

 たとえば、次のような会話が交わされます。

「まあ、確かに株価は安いんだけどね~。バランスシートの効率悪いし、配当も低いし」
「最近は、またモノ作りの話ばっかりする。数字も経常利益の説明しかしない。」

確かに日本の企業はまじめにディスクロージャーするし、コーポレートガバナンスの仕組みも比較的整えているほうです。もっとも「オリンパス問題」で、それにも疑いの眼差しが向けられていますが・・・
これに比べて韓国の企業は投資家への自社株売り込みに際して、大いに誇張する傾向があるため、いかにそれを見破るかに投資家は神経をとがらせるそうです。
 また中国系企業は自社の高い成長戦略をアピールすることが多いのですが、中国政府の統計や予測データに基づくものであれば、クレデビリティを疑う必要が出てくるので注意が必要だといいます。

 それでも、成長著しい中国や韓国の企業の中にはグローバル企業に脱皮するところがどんどん出ていて、彼らはデ・ファクトの世界標準的な経営スタイルを心がけるようになり、巨万の資金を動かす有力な投資家に猛烈な売込みをかけています。
 さらに言えば、韓国の「サムスン」は営業利益率が30%もあるといわれています。グループ企業の「サムスン・コーニング精密素材」(米国のガラス大手コーニング社とのジョイベン)に至っては、昨年の営業利益率が63%というスゴさ。
 従って、資金の出し手である投資家にとっては、日本を投資対象として特別視する理由が現状では、ほぼなくなりました。

今や日本株に興味あるのは、時価総額の比較的大きな株に機械的に分散投資するインデックス投資家と、値動きの激しいものを狙うヘッジファンド程度のごく一部。日本が、かって世界を席巻していた業種の企業で、投資家面会のアポすらとれなくなったところが続出していると言います。このストーリーの先にくるものは何か?

技術力が世界有数だが株価が超割安となった日本企業の株を、中国や韓国などアジア各国の企業が買いにくるということ。レナウンのように中国市場をにらんで自らアジア系企業の傘下に入る日本企業も出てくるでしょう。いや、あれは中国山東省の「山東如意科技集団」がレナウンのブランド力を武器に日本市場への浸透をはかる意図とも合致したため、相思相愛でM&Aされたケースでした。

その結果、日本の先端技術はどんどん流出していき、日本が歴史的に地政学上保持していた重要な戦略価値は相対的に下がってしまいます。と、ここまで書いて、注目すべきニュースを耳にしました。

中国パソコン最大手のレノボ・グループが読売新聞の取材に答えて、かってIBM時代に日本で高い人気を誇った「シンクパッド」など、すべてのレノボブランドを中国生産から山形県の米沢での生産に切替ることを検討、と表明したのです。
ミルコ・ファン・ドュイル上席副社長いわく、「消費者に近いところで生産することは重要」と述べて日本市場でのシェア拡大が目的であることをうかがわせました。

しかしそれ以上に重要なのは、この経営方針が被災地東北支援のための措置ではなく、日本企業がコスト(為替レート)を理由に挙って生産拠点を海外に移そうかと検討している折も折、逆艪をこぐように、あくまでもコスト優位を維持できる自信のもと、生産効率化とブランド力強化のため「Made in Japan」の価値を中軸にすえた戦略判断を下したもの、と見られるからです。

従って、ストーリーの更なる展開で言えば
日本の先端技術の海外流出、移転
↓ 有力な日本企業がアジア系企業の傘下に
↓ それを活かした中国などアジア系企業が日本再上陸
↓ 日本列島の地政学的価値がさらなる低下
ということになるのです。

つまり日本がアジアと対置した過去150年間の歴史の時代から、アジア諸国にとって「1億人の消費者が住むマーケットとしての日本」、という新しい時代に。



稲井英一郎(いない えいいちろう)
1982年TBS入社。報道局の社会部および政治部で取材記者として様々な省庁・政党を担当、ワシントン支局赴任中に9/11に遭遇。
2003年からIR部門で国内外の株主・投資ファンド・アナリスト担当
2008年から赤坂サカスの不動産事業担当
2010年より東通に業務出向。
趣味は自転車・ギター・ヨット(1級船舶免許所有)、浮世絵など日本文化研究。
新しいメディア・コンテンツ産業のあり方模索中。



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